古事記・現代語訳「上巻」大国主神

大国主神

大国主神

因幡の白兎

大国主おおくにぬし神のかみの兄弟には、多くの神々（八十神やそがみ）がいた。
しかし皆、この国を大国主おおくにぬし神に譲り渡すことになる。
譲った理由は次の通りである。

その大勢の神々は、皆それぞれ因幡いなばの八上比売やがみひめに求婚しようという下心があり、一緒に因幡いなばに出かけたときに、大穴牟遅おおなむじ神のかみ（大国主神）に袋を背負わせ、従者として連れて行った。
すると、気多けたの岬みさきにやって来た時、丸裸になった兎うさぎが横たわっていた。

これを見た大勢の神々が、その兎うさぎに、
「お前がその体を治すには、潮水を浴びて、風の吹きあたって、高い山の頂に寝ておれ」
と教えた。
それでその兎は、神々の教えた通りにして、山の上に寝ていた。
すると、浴びた潮水が乾くにつれて、兎の体の皮膚が、すっかり風に吹かれてひび割れた。

それで兎が痛み苦しんで泣き伏していると、神々の最後について来た大穴牟遅おおなむじ神のかみが、その兎うさぎを見て、
「どういうわけで、お前は泣き伏しているのか」
と尋ねた。
兎が答えて、
「私は隠岐島おきのしまにいて、ここに渡りたいと思いましたが、渡る方法がなかったので、海にいる和邇わにを騙して、『私とお前と比べて、どちらが同族が多いかを数えてみたい。それでお前はその同族を、ありったけ全部連れて来て、この島から気多けたの岬みさきまで、皆一列に並んで伏しておれ。そうしたら、私がその上を踏んで、走りながら数えて渡ることにしよう。こうして私の同族とどちらが多いかを知ることにしよう』と、言いました。そして、和邇わにが騙されて並んで伏しているとき、私はその上を踏んで、数えながら渡って来て、今や地上に下りようとする時、私が『お前は私に騙されたのだよ』と言い終わるやいなや、一番端に伏していた和邇わにが私を捕えて、私の着物をすっかり剝ぎ取りました。そのために泣き悲しんでいたところ、先に行った大勢の神々が言われるには、『潮水を浴びて、風にあたって寝ておれ』とお教えになりました。それで教えの通りにしましたら、私の体は全身傷だらけになりました」
と言った。

そこで大穴牟遅おおなむじは、その兎うさぎに、
「今すぐにこの河口みなと（水門）に行って、真水でお前の体を洗って、その河口の蒲がまの花粉を取ってまき散らし、その上に寝ころがれば、お前の体はもとの肌のようにきっと治るだろう」
と教えた。
教えの通りにしたところ、兎の体は元どおりになった。
これが因幡いなばの白兎しろうさぎである。
今もこの兎を兎神うさぎかみといっている。

そこでその兎は、大穴牟遅おおなむじに、
「あの大勢の神々は、八上姫比売やがみひめを娶ることはできません。袋を背負って来ていますが、しかし、あなた様が娶られるはずです」
と申しあげた。

八十神の迫害

八上姫比売やがみひめは八十神やそがみたちに答えた。
「私はあなた方の言うことは聞きません。大穴牟遅おおなむじと結婚します」

これを聞いた八十神やそがみたちは怒って、大穴牟遅おおなむじを殺そうと思った。
皆で相談して、伯耆国ははきのくにの手間山てまのやまの麓にやって来て言った。
「赤い猪いのししがこの山にいる。我々が一斉に追い下ろしたら、お前は下で待ち受けて捕えなさい。もし待ち受けて捕えなかったら、必ずお前を殺すぞ」
そう言って、猪いのししに似た大石を火で焼いて転がし落とした。

そこで追い下ろすのを捕えようとして、大穴牟遅おおなむじはたちまちその焼け石に焼きつかれて、死んでしまった。

このことを知った御母神が泣き悲しんで高天原に上って、神産巣日かむむすひ命に救いを請うた。
すぐに刮貝比売きさがひひめ（「きさ（刮）」の字は討に虫）と蛤貝比売うむぎひめとを遣わして、治療して蘇生させられた。
そのとき、刮貝比売きさがひひめは貝殼を刮けず（削）って粉を集め、蛤貝比売うむぎひめはこれを待ち受けて、蛤はまぐりの汁で溶いた母の乳汁を塗ったところ、大穴牟遅おおなむじは立派な男子となって元気に出て歩かれた。

八十神たちはこれを見て、また大穴牟遅おおなむじを騙して山に連れ込んだ。
そして大木を切り倒し、楔くさびをその木に打ち立て、その割れ目の間に入らせるやいなや、その楔を引き抜いて打ち殺してしまった。

そこでまた御母神みおやがみが泣きながら大穴牟遅おおなむじを探したところ、見つけ出すことができた。
すぐにその木を裂いて取り出して復活させ、我が子である大穴牟遅おおなむじに、
「あなたはここにいたら、八十神やそがみたちによって滅されてしまうだろう」
と告げて、すぐに紀伊国きいのくにの大屋毘古おおやびこ神のもとに遣わした。

ところが八十神やそがみたちは探し追いかけて来て、弓に矢をつがえて大穴牟遅おおなむじを引き渡せと求めた。
そのとき大屋毘古おほやびこは、木の股をくぐって大穴牟遅を逃がし、
「須佐能男すさのお命のおられる根ねの堅州国かたすくにに向っていらっしゃい。きっと須佐之男すさのおが善いように考えて下さるでしょう」
と言った。

根の国への訪問

指示に従って須佐之男すさのおのいる所にやって来ると、その娘の須勢理毘売すせりびめが出てきた。
大穴牟遅おおなむじの姿を見て、互いに目を見かわし結婚し、御殿に引き返してその父神に、
「たいそう立派な神がお出でになりました」
と言った。

そこで須佐之男すさのおが出て一目見て、
「これは葦原色許男あしはらしこおという神だ」
と言って、ただちに呼び入れて、蛇のいる室むろに寝させた。

そのとき、妻の須勢理毘売すせりびめは、蛇へびの害を祓はらう領巾ひれを夫に授けて、
「その蛇へびが食いつこうとしたら、この領巾ひれを三度振って打ち払いなさいませ」
と言った。
こうして教えられた通りにしたところ、蛇は自然に鎮まったので、安らかに寝て、その室むろを出られた。

また翌日の夜は、蜈蚣むかでと蜂はちのいる室むろに入れられた。
今度も蜈蚣むかでと蜂はちを祓はらう領巾ひれを授けて、前のように教えた。
それで無事にそこから出ることができた。

また須佐之男すさのおは、鐘矢かぶらやを広い野原の中に射込いこんで、その矢を拾わせようとした。
そこでその野原に入ったとき、すぐに火を放ってその野を周囲から焼いた。

そのとき、出る所がわからず困っていると、鼠ねずみが現われて、
「内は虚うつろで広い、外はすぼまっている」
と教えた。
鼠ねずみの言うところを踏むと、下に落ちこんで、穴に隠れ潜んでいた間に、火は上を焼けて過ぎた。

そしてその鼠ねずみが、先の鏑矢かぶらやをくわえて出て来て、大穴牟遅おおなむじに奉った。
その矢の羽は、その鼠の子供が食いちぎっていた。

妻の須勢理毘売すせりびめは、葬式の道具を持って泣きながら現われ、その父の須佐之男すさのおは、大穴牟遅おおなむじはとっくに死んだと思って、その野に出で立たれた。
ところが大穴牟遅おおなむじが、その矢を持って差し出してきた。
そこで、家の中に連れて入って、広い大室屋おおむろやに呼び入れ、その頭の虱しらみを取ることを命じた。
その頭を見ると、蜈蚣むかでが一杯いた。

このとき妻は、椋むくの実と赤土とを取って夫に与えた。
掠むくの実を嚙み砕き、赤土を口に含んで唾を吐き出されると、須佐之男すさのおは蜈蚣むかでを嚙み砕いて、唾を吐き出しているのだと勘違いし、心の中でかわいい奴だと思って、眠ってしまわれた。

このとき大穴牟遅おおなむじは、須佐之男すさのおの髪を掴んで室屋むろやの垂木に結びつけ、大きな岩をその室屋むろやの戸口に引き据えた。
そして妻の須勢理毘売すせりびめを背負い、すぐに須佐之男すさのおの宝物である生大刀いくたち、生弓矢いくゆみや、天詔琴あまののりごとを携たずさえて逃げ出された。

そのとき、天詔琴あまののりごとが樹に触れて、大地が鳴動するような音がした。

それで眠っていた須佐之男すさのおが、この音を聞いてはっと目を覚し、その室屋むろやを引き倒してしまわれた。
けれども、垂木たるきに結びつけた髪を解いておられる間に、大穴牟遅おおなむじは遠くへ逃げのびて行かれた。

そこで須佐之男すさのおは、黄泉比良坂よもつひらさかまで追いかけて来て、遥か遠くに大穴牟遅おおなむじの姿を望み見て、大声で呼びかけた。
「お前が持っているその生大刀いくたち、生弓矢いくゆみやで、お前の腹違いの兄弟を坂のすそに追い伏せ、また川の瀬に追い払って、貴様が大国主神おおくにぬしのかみとなり、また、現国泰神うつしくにたまのかみとなって、私の娘の須勢理毘売すせりびめを正妻として、宇迦うかの山の麓ふもとに、太い宫柱を深く掘り立て、空高く千木ちぎをそびやかした宫殿に住め。こやつよ」
と言った。

そこでその大刀や弓でもって、兄弟の八十神やそがみを追い退けるとき、坂のすそごとに追い伏せ、川の瀬ごとに追い払って、国作りを始められた。

八上比売やがみひめは、先の約束どおり、大国主おおくにぬし神と結婚された。
そして八上比売やがみひめは出雲いずもへ連れて来たのだが、本妻である須勢理毘売すせりびめを恐れて、その生んだ子は木の股に挿し挟んで因幡いなばへ帰った。
それでその子を名づけて木俣きまた神、またの名を御井みい神という。

八千矛神の妻問い

この八千矛神やちほこのかみ（大国主命)が、越国こしのくにの沼河比売ぬなかわひめに求婚しようとして、お出かけになったとき、その沼河比売ぬなかわひめの家に着いて歌を詠んだ。

八千矛神やちほこのかみの命みことは、
日本国中で思わしい妻を娶ることができなくて、
遠い遠い越国こしのくにに賢明な女性がいるとお聞きになって、
美しい女性がいるとお聞きになって、
求婚にしきりにお出かけになり、
求婚に通いつづけられ、
大刀の緒もまだ解かずに、
襲おすいをもまだ脱がないうちに、
少女の寝ている家の板戸を、
押し揺さぶって立っておられると、
しきりに引き揺さぶって立っておられると、
青山ではもう鵼ぬえが鳴いた。
野の雉きぎしはけたたましく鳴いている。
庭の鶏かげは鳴いて夜明けを告げている。
忌々しくも鳴く鳥どもだ。
あの鳥どもを打ち叩いて鳴くのをやめさせてくれ、
空を飛ぶ使いの鳥よ。
これを語り言としてお伝えします。(二)

そのとき沼河比売ぬなかわひめは、まだ戸を開けないで、中から歌って、

八千矛神やちほこのかみの命みことよ、
私はなよやかな女のことですから、
わたしの心は、浦州うらすにいる水鳥のように、
いつも夫を慕い求めています。
ただ今は自分の意のままに振る舞っていますが、
やがてはあなたのお心のままになるでしょうから、
鳥どもの命を殺さないで下さい、
空を飛びかける使いの鳥よ。
これを語り言としてお伝えします。(三)

青山の向うに日が沈んだら、
夜にはきっと出て、あなたをお迎えしましよう。
そのとき朝日が輝くように、
明るい笑みを浮かべてあなたがお出でになり、
白い私の腕や、雪のように白くてやわらかな若々しい胸を、
愛撫したりからみ合ったりして、
玉のように美しい私の手を手枕たまくらとして、
脚を長々と伸ばしてお休みになることでしょうから、
あまりひどく恋い焦がれなさいますな、
八千矛神やちほこのかみの命みことよ。
これを語り言としてお伝えします。(四)

そしてその夜は会わないで、翌日の夜お会いになった。

八千矛神やちほこのかみの正妻の須勢理毘売すせりびめは、たいそう嫉妬しっと深い神であった。
そのため、夫の神は当惑して、出雲国いずものくにから大和国やまとのくににお上りになろうとして、旅支度をして出発されるときに、片方の手を馬の鞍くらにかけ、片方の足を鐙あぶみに踏み入れて歌った。

黒い衣裳いしょうを丁寧に着こんで、
沖の水鳥のように胸元を見ると、
鳥が羽ばたくように、
袖を上げ下げして見ると、
これは似合わない。
岸に寄せる波が引くように後ろに脱ぎ棄て、
こんどは翡翠かわせみの羽のような青い衣裳いしょうを丁寧に着こんで、
沖の水鳥のように胸元を見るとき、
鳥が羽ばたくように、
袖を上げ下げして見ると、
これも似合わない。
岸に寄せる波が引くように後ろに脱ぎ棄て、
山畑に蒔まいた蓼藍たであいを臼うすで舂つき、
その染め草の汁で染めた藍色の衣を丁寧に着こんで、
沖の水鳥のように胸元を見ると、
鳥が羽ばたくように、
袖を上げ下げして見ると、
これはよく似合う。
いとしい妻の君よ、
群鳥が飛び立つように、
私が大勢の供人をつれて行ったならば、
引かれてゆく鳥のように、
私が大勢の供人に引かれて行ったならば、
あなたは泣くまいと強がって言っても、
山の裾すそに立つ一本の薄すすきのように項垂うなだれて、
あなたは泣くことだろう、
そのあなたの嘆きは、
朝の雨が霧きりとなって立ちこめるように、
嘆きの霧きりが立ちこめるであろうよ。
愛しい妻の君よ。
これを語り言としてお伝えいたします。(五)

そこでその后きさきは大御杯おおみさかずきを取って、夫のそばに立ち寄り、杯を捧げて歌われた。

八千矛神やちほこのかみの命みことは、我が大国主神おおくにぬしのかみよ。
あなたは男性でいらっしゃるから、
打ちめぐる島しまの崎々に、
打ちめぐる磯いその崎ごとに、
どこにも妻をお持ちになっているでしょう。
それにひきかえ、私は女性の身ですから、
あなた以外に男はありません、
あなたのほかに夫はないのです。
綾織あやおりの帳とばりのふわふわと垂れている下で、
苧からむしの夜具のやわらかな下で、
栲たくの夜具のざわざわと鳴る下で、
沫雪あわゆきのように白い若やかな胸を、
栲たくの綱のように白い腕を、
愛撫しからませ合って、
私の美しい手を手枕たまくらとして、
脚を長々と伸ばしておやすみなさいませ。
さあ御酒みきを召し上りませ。(六)

このように歌って、すぐに杯さかずきを交わして夫婦の契りを固め、互いに首に手をかけて、現在に至るまで睦まじく鎮座しておられる。

以上の五首を神語かむがたりという。

大国主神の神裔

この大国主おおくにぬし神が、宗像むなかたの沖津宮おきつのみやに鎮まる神の多紀理毘売たきりびめを妻として生んだ子は阿遅鉏高日子根あじすきたかひこね神、次に妹の高比売たかひめ、またの名を下照比売したてるひめという。
この阿遅鉏高日子根あじすきたかひこねは、賀茂かもの大御神おおみかみといっている。

大国主神が、神屋楯比売かむやたてひめを妻として生んだ子は、事代主ことしろぬしである。

また、八島牟遅やしまむじの娘である鳥取ととりを妻として生んだ子は、鳥鳴海とりなるみである。

この神が、日名照額田毘道男伊許知邇ひなてるぬかたびちおいこちにを妻として生んだ子は、国忍富くにおしとみである。

この神が、葦那陀迦あしなだか、またの名は八河江比売やがわえひめを妻として生んだ子は、速甕之多気佐波夜遅奴美はやみかのたけさはやじぬみである。

この神が、天之御中主神あめのみなかぬしのかみの娘である前玉比売さきたまひめを妻として生んだ子は、甕主日子みかぬしひこである。

この神が、淤加美おかみの娘の比那良志毘売ひならしびめを妻として生んだ子は、多比理岐志麻流美たひりきしまるみである。

この神が、比々羅木之其花麻豆美ひひらぎのそのはなまづみの娘である活玉前玉比売いくたまさきたまひめを妻として生んだ子は、美呂浪みろなみである。

この神が、敷山主しきやまぬしの娘の青沼馬押比売あおぬうまぬおしひめを妻として生んだ子は、布忍富鳥鳴海ぬのおしとみとりなるみである。

この神が、若尽女わかつくしめを妻として生んだ子は、天日腹大科度美あめのひばらおおしなどみである。

この神が、天狭霧あめのさぎりの娘である遠津待根とおつまちねを妻として生んだ子は、遠津山岬多良斯とおつやまさきたらしである。

ここに挙げた八島士奴美やしまじぬみから、遠津山岬多良斯とおつやまさきたらしまでの神々を、十七世とおまりななよの神という。

少名毘古那神と御諸山の神

大国主おおくにぬし神が出雲いずもの美保みほの岬みさきにいた時、波頭の上から蘿茶ががいもの実の船に乗って、蛾ひむしの皮を丸剝まるはぎに剝むいで衣服に着て、近づいて来る神があった。
その名を尋ねたが、答えなかった。
また、お供に従っている神々に尋ねたが、
「知りません」
という。

そのとき蝦蟇がまが言うには、
「これは久延毘古くえびこがきっと知っているでしょう」
と申したので、すぐさま久延毘古を呼んで尋ねると、
「この神は、神産巣日かむむすひの御子みこの少名毘古那すくなびこなです」
と答えた。

そこで大国主おおくにぬし神が、神産巣日かむむすひの御祖神みおやがみにこのことを申し上げたところ、
「これは本当に私の子です。子供の中で、私の手の指の間から漏れこぼれた子です。そして、おまえは、葦原色許男あしはらしこおと兄弟となって、その国を作り固めなさい」
と言った。
こうして、大穴牟遅おおなむじと少名毘古那すくなびこなの二柱の神が共に協力して、この国を作り固められた。

そして後には、その少名毘古那は、海原の彼方の常世国とこよのくにに渡った。

少名毘古那について解説した久延毘古くえびこは、今では山田やまだの曾富騰そほどという案山子である。
この神は、歩くことができないが、天下の全てを知っている神である。

大国主神が心配して言った。
「私は一人で、どうやってこの国を作り固めることができようか。どの神が私と協力して、この国を共に作るのだろうか」

このとき、海上を照らして近寄って来る神があった。その神が言うには、
「丁重に私の御魂みたまを祭ったならば、私はあなたに協力して、共に国作りを完成させよう。もしそうしなかったら、国作りはできないであろう」
と仰せられた。

そこで大国主神が、
「それでは御魂をお祭り申しあげるには、どのように致したらよいのですか」
と聞くと、
「私の御魂を、大和の青々ととり囲んでいる山々の、その東の山の上に斎み清めて祭りなさい」
と答えた。

これが御諸山みもろやまの上に鎮座している神である。

大年神の神裔

ところで、かの大年おおとし神が神活須毘かむいすくびの娘の伊怒比売いのひめを妻として生んだ子は、大国御魂おおくにみたま神、
次に韓から神、
次に、曾富理そほり、
次に白日しらひ、
次に聖ひじり。
合わせて五柱の神である。

また、香用比売かよひめを妻として生んだ子は、大香山戸臣おおかぐやまとみ、
次に御年神みとしのかみの二柱である。

また、天知迦流美豆比売あめちかるみづひめを妻として生んだ子は、奥津日子おきつひこ、
次に奥津比売おきつひめ、またの名は大戸比売おおへひめである。
この神は、人々が大事にお祭りしている竈かまどの神である。
次に生まれたのは大山咋おおやまくひ、またの名を山末之大主神やますえのおおぬしのかみという。
この神は近江国おうみのくにの比叡山ひえいざんに鎮座し、また葛野の松尾に鎮座して、鳴鏑なりかぶらを神体とする神である。
次に生まれたのは庭津日にわつひ、
次に阿須波あすは、
次に波比岐はひき、
次に香山戸臣かぐやまとみ、
次に羽山戸はやまと、
次に庭高津日にわたかつひ、
次に大土神おおつちのかみ、またの名は土之御祖神つちのみおやのかみ。
合わせて九柱の神である。

上にあげた大年おおとしの子である大国御魂おおくにたまから大土おおつちまで、合わせて十六神である。

羽山戸はやまとが大気都比売おおげつひめを妻として生んだ子は、若山咋わかやまくひ、
次に若年わかとし、
次に妹の若沙那売わかさなめ、
次に弥豆麻岐みづまき、
次に夏高津日なつたかつひ、またの名は夏之売なつのめ、
次に秋毘売あきびめ、
次に久々年くくとし、
次に久々紀若室葛根くくきわかむろつなねである。